私的使用目的のための複製(第30条)

著作権の権利制限の「私的使用目的のための複製(第30条)」をテーマに、著作権専門の弁護士がわかりやすく解説します。著作権法に関することはなかなか理解しにくいため、トラブルなどが起きたときやトラブルを未然に防ぐためには著作権の専門の弁護士にご相談ください。

私的使用のための複製とは

著作権法第30条の私的使用目的のための複製とは、著作物を個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(これを「私的使用」といいます。)を目的とする場合は、一定要件下で複製を認める権利です。
具体的には、自分で購入したCDをMP3プレイヤーに入れたり、レンタル店で借りたCDをダビングするような場合等はこの制限規定に該当するため、複製しても違法となりません。これは家庭内等の狭い範囲で複製する場合は、権利者に与える影響は少ないと思われるからです。
しかしながら、コピーコントロール等の技術的保護手段がほどこされたものを、その保護手段を回避して複製した場合や、違法でアップロードされている著作物であることを知りながらそこからダウンロードをするような場合はこの制限規定は適用されず、侵害となりえます。(著作権法30条1項2号、3号)
また、複製行為を行った時点においては私的使用目的の複製であっても、その後にネット等で複製した著作物を頒布等すれば、侵害となります(著作権法49条1項1号)

書籍の自炊代行は私的使用として許されるか

書籍の自炊とは、書籍の背を裁断して、スキャナーを用いて電子データとして保存することを言います。書籍の所有権は購入者にあるのですから、書籍を裁断したとしても他人の所有権を侵害することはなく、電子データ化することも著作権法30条の私的使用のための複製として許容されています。

問題となるのは、私的使用を目的とする書籍の自炊行為を、業者に代行させることが私的使用のための複製として、著作権法上許容されるかという点です。こうした自炊代行業者を使用した自炊行為が、私的使用のための複製といえるかが争われた裁判例がいくつかありますが、いずれも複製を行っている者(複製主体)は自炊代行業者であり、顧客が複製を行っているわけではないので、私的使用のための複製とはいえないと判断されています。
以下、知財高裁平成26年10月22日判決(裁判所ウェブサイト)の一部を引用します。

(1) 著作権法30条1項は,①「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」こと,及び②「その使用する者が複製する」ことを要件として,私的使用のための複製に対して著作権者の複製権を制限している。
そして,前記2のとおり,控訴人ドライバレッジは本件サービスにおける複製行為の主体と認められるから,控訴人ドライバレッジについて,上記要件の有無を検討することとなる。しかるに,控訴人ドライバレッジは,営利を目的として,顧客である不特定多数の利用者に複製物である電子ファイルを納品・提供するために複製を行っているのであるから,「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする」ということはできず,上記①の要件を欠く。また,控訴人ドライバレッジは複製行為の主体であるのに対し,複製された電子ファイルを私的使用する者は利用者であることから,「その使用する者が複製する」ということはできず,上記②の要件も欠く。
したがって,控訴人ドライバレッジについて同法30条1項を適用する余地はないというべきである。

企業内での複製は私的使用として許されるか

企業内部で、書籍や雑誌、新聞などの著作物をコピーし、会議や商談に使用することは日常的によく見られることだと思います。企業内での複製が許されるとする著作権法上の明文の規定がないことから、企業内での複製行為が許されるか否かは、著作権法30条1項の私的使用のための複製といえるか否かという判断になります。
この点に関しては、多くの学説が、企業内での複製は、私的使用目的とは言えないと考えています。あまり裁判例はないのですが、東京地裁昭和52年7月22日判決(判タ369号268頁)は、以下のとおり、企業内の複製は、私的使用とはいえないと判示しています。

・・・被告らは、第一設計図の複製図面は被告らにおいて、自社用資料として、使用する目的のものであったから、その複製については、原告の許諾を得る必要がない旨主張する。ところで、著作権法第三〇条によれば、著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができる旨が規定されているが、企業その他の団体において、内部的に業務上利用するために著作物を複製する行為は、その目的が個人的な使用にあるとはいえず、かつ家庭内に準ずる限られた範囲内における使用にあるとはいえないから、同条所定の私的使用には該当しないと解するのが相当である。
しかして、本件においては、すでに判示したところからすれば、被告らは、会社における内部的利用のために第一設計図の複製をしたことが明らかであつて、その複製行為は、同法第三〇条所定の私的使用には該当しないから、原告の許諾を得る必要がないということはできない。

上記のように、企業内での複製は著作権侵害になってしまうという回答になってしまうことから、適法であるという意見を期待して相談に来た企業の担当者に対して、弁護士としては回答しにくい質問の一つになっています。しかし、最近では、企業内での複製を一律に禁止するのは現実の企業活動の実態に合致していないのではないかという見解も増えており、企業内での複製であったとしても、「個人的」や「家庭内」に準じる場合には、著作権法30条1項の適用又は準用によって、企業内での複製を限定的に許容しようとする見解も増えているようです。

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大熊裕司
弁護士 大熊 裕司
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